連載コラム#03 【ゲストハウスに泊まる準備体操】-ビックリマークを売る話-

更新日

連載と豪語しておきながら3ヶ月ほど空いてしまった。ライターの本業の傍ら一人でほそぼそと運営しているFootPrintsでは、HUNTER×HUNTER並みに期間が空くことは昔からよくあるので、もう読者の皆さんは慣れていらっしゃるかもしれない。いつもあたたかく見守ってくださり感謝しております。

私は今、和歌山県海南市にある海際の集落「冷水浦(しみずうら)」で暮らしているのだが、春から保育所に通いはじめた1歳の子どもから風邪をたびたびもらいながらも、3-4月は冷水浦を紹介する冊子「umigiwa profile」を制作していた。フリーランスなので、大工の夫が古民家を改修してつくってくれた住まいが作業場を兼ねている。

これまでFootPrintsで日本各地のゲストハウスを紹介させていただくなかで「古民家を改修して…」といった文言は幾度となく用いてきた。だが、実際自分が住んでみると、古民家と一口に言っても築年数や前の持ち主の保存状態、周辺環境などで、改修にかかる手間や費用は大小さまざまだと気付かされる。

冷水浦で夫が昨年末から週末限定のビアバー(なんだかゲストハウスみたいな場所)を始め、お店のインスタを担当することになった。紹介する側から紹介される側になって、他者の行動から我が身を振り返り、今まで自分は一軒一軒の本質をちゃんと捉えて紹介できていただろうかと思うようになった。

自分が心からいいと思ったものを一人でも多くの人に伝えようと、誇大広告にならない範囲で、自分なりの視点と表現を練って発信することはいいことだ。だけど、多大な時間と労力をかけてつくりあげられた場所を、文章や写真で切り取って的確に伝えるのはきっとなかなか簡単なことではない。マジョリティを意識するほど、表層部をさらったキーワードを散りばめただけの発信になる恐れだってある。

いろいろ考え出すとキリがないけど、一番大事なのは、自分の心が動かされたことを正直に綴ることだと思う。たとえ拙い文章でも、そこに血が通っていることが大切ではないか。

FootPrintsをスタートした2011年の頃、それはそれは拙い文章だった。素敵!すごい!!といったビックリマークの大行進。前職の広告会社を退職して独立し、改めて自分で文章を学ぶようになり次第に、ビックリマークだらけで感情剥き出しの文章が世間の皆さまの目に触れていることが恥ずかしくなった。隙間時間に少しずつ手直ししていたが、ゲストハウスを訪れたときの情報も古くなっていったので、2019年のサイトリニューアルの際に情報と表現を一新することにした。

しかし、いざ一新してみると、どうしたことか。ビックリマークと共に、記事から滲み出ていた人柄や個性まで削ぎ落としてしまったのではないかと不安になった。拙さのなかにあった唯一無二なものが、どこかの雑誌やWEB記事で見かけるような既視感のある表現に変わってしまったのではないかと。

誰もが情報発信者になれる今の時代だからこそ、情報が整っていて綺麗でわかりやすいことより、人柄や個性が溢れる本音の文章のほうが大切に違いないのに…、と悶々と考えるようになった。

そんなとき、クラウドファンディングを支援したリターンで、鳥取県にある「ゲストハウスたみ」の当時の運営者である蛇谷さんと三宅さんとオンラインでお話しする機会をいただいた。悶々とした胸の内を素直に打ち明けると、意外な言葉が返ってきた。

「そのビックリマーク、売ったらいいんじゃない?」

言われた直後は奇抜な発想に思わず「え!?」と笑ったけど、この言葉になんだかハッと救われた。過去にばかり気を取られていた私がちっぽけに思えたし、“捨てる”でも“譲る”でもなく“売る”と表現することで、迷いながらも進み続けたこれまでに価値があると諭してもらっている気がして嬉しかった。

もちろん実際にビックリマークを売ることはなかったし、私の過去のビックリマークは世の誰かに買ってもらえるほどではないだろうけど、ゲストハウスを旅するなかで何度も湧き出てきた私の中のビックリマークは忘れてはいけない感覚だなと思う。

普通のホテルや旅館とはちょっと違ってプライベート性よりパブリック性が強く、多種多様な色が混ざり合って、予想外のサプライズやハプニングが楽しめるかもしれないゲストハウス。これから初めて、あるいは久々に泊まろうという方にも、素敵なビックリマークとの出会いがあることを願っています。

以上、日本各地200軒以上のゲストハウスに宿泊したFootPrintsだりの記憶の中に眠る好きな思い出話を呼び起こし、ゲストハウスの面白さとは何かを一緒に見つめていく当連載コラム、第3回「ビックリマークを売る話」でした。