PORTOの「オンライン移住相談」を取材しました|北九州

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日本各地のゲストハウスが取り組む「オンライン○○企画」を体験・取材する当連載。第3回となる今回は、福岡県・門司港にある「ゲストハウスPORTO(ポルト)」のオーナー菊池 勇太さんが、北九州市認定の相談員として2020年5月1日より実施する「オンライン移住相談」についてお話を伺いました。

時世と需要を受けて「オンライン移住相談」を開始

新型コロナウイルスの影響によって地方への移住・転職ニーズが高まる一方、各自治体の移住相談窓口はリアルな対面式がほとんど。オンライン窓口の設置が急務となるなか、いち早く行動に移した北九州市がオファーを寄せたのが、自身もUターン移住者であるPORTOの菊池さんでした。

以前より移住相談や創業支援をボランティアで実施し、緊急事態宣言が発表された際は地域の人々の要望を取りまとめて北九州市に働きかけるなど、地域の顔と言えるこれまでの行動が抜擢の理由です。

1989年生まれの菊池さん(右)。就職を機に東京へ。それから福岡市を経て地元にUターン。

「20-30代の若い人たちにもっと移住してほしい」という北九州市さんの意向もあり、移住希望者と相談員との世代の近さという点もふまえて、僕に「オンライン移住相談」のアイデアを持ちかけてくださったようです。オンラインを介した移住相談であれば、若い世代で抵抗感のない人が多いですし、むしろネットリテラシーの高い行動的な人を呼び込める可能性が上がります。

Zoomを用いて柔軟に対応。地域の情報をまとめるハブ

こうして始まった「オンライン移住相談」。具体的な対応の流れを見てみましょう。

まず、公式サイトに記載のメールアドレス宛に希望の日時を送信し、菊池さんとスケジュールを合わせます。メールの案内にそって関心事項をあらかじめ伝えると関連資料が送られてきます。当日は、ビデオ通話のツールZoomを利用。オンライン越しに顔を合わせ、資料を適宜参照しつつ相談が行われます。

定休日はなく「13:00〜21:00の間で互いの都合がよい日時に」といった柔軟な稼働です。オンラインであれば移動時間や交通費も省けるので、相談者と相談員の両者にとって負担が少なくていいですよね。

現在、菊池さんは社員さん2人と共にPORTOで暮らしているそう。Zoom中、背後に館内の風景がしばしば映り込みます。

早くも、すでに何件か相談を受けたのだそう。相談者からは、市内で移住・起業経験のある菊池さんの実体験に基づいた率直かつ親身な回答が評判のようです。さまざまな相談を受けるなかで、専門外の質問に「その答えは持ち合わせていないな…」と困ったことはないのでしょうか。

もちろん家族構成や働き方の違いから、僕が直接回答できない質問もあります。だけど相談者さんが必要とする情報を持っている地域の人とは繋がっているので、その方に伺って情報を得たり、許可を得てお繋ぎしたりすることはできるため、対応できない質問は特にないですね。

ちなみに菊池さんの提案で、北九州市の職員さんとはGoogleドライブで移住に関連する資料や進捗状況をシェアしているのだそう。ストレージサービスもオンラインとは、さすが!

活動は先進的ですが、PORTO館内には優美な中庭をはじめとする古風な趣が漂っています。

オンライン移住相談のメリットと、ゲストハウスとの親和性

「オンライン移住相談」のメリットは、自宅にいながら気軽に相談できることや、迅速かつペーパーレスに資料を共有できることだけではありません。重要なポイントとして、関係性の継続が挙げられます。

相談者さんから「メールでまた相談していいですか?」と言っていただくなど、連絡手段の気軽さから関係性が続きやすい傾向にあります。オンラインと言っても活字だけでなく、一度Zoom越しに顔を合わせているので、ある程度お互いの人柄を理解し、安心してやりとりができている印象です。

Zoomの締め括りに「コロナ禍が落ち着いたら遊びににいきますね」という言葉を添える相談者や、さらには一定期間の自主隔離を行ったのちPORTOに長期滞在して物件探しをはじめた東京出身の親子もすでにいるのだそう。ゲストハウスという地域に根差した滞在拠点との相性の良さが垣間見えます。

もともとゲストハウスは地域の日常を体験できる場所であり、ツーリズムよりレジデンスに近い存在です。地域の中と外の人を繫ぐことに長けた運営者が多いですし、滞在をきっかけに地域のファンが増えることも少なくありません。遠方にいる人々を集客してきた業種なのでオンライン対応に慣れているし、トライアル移住も受け入れられます。「オンライン移住相談」との親和性は高いですね。

PORTOには相部屋だけでなく、デザインが異なるベッドタイプの個室が5部屋あるので、長期滞在もしやすい。

日本各地のゲストハウスへ、事例のバトンを

程度の差こそあれ、ボランティアで移住希望者をサポートしたことのあるゲストハウスは全国的にきっと多いはず。そこで、自身が「オンライン移住相談」の業務を受け持つことで、北九州市のオンライン対応が進むだけでなく、日本各地のゲストハウスにとって役立つ事例にもなればと菊池さんは話します。

物産展のような“物のショールーム”は世の中に多数ありますが、地域の内面的な良さに触れる“暮らしのショールーム”はあまり存在しません。ゲストハウスは、まさに“暮らしのショールーム”です。行政と共同することで、どのように移住者を増やそうかと頭を悩ませる行政側の課題を解決しながら、宿側も副業として、より安定して極め細やかなサポートを実現することができます。今後、日本各地のゲストハウスと行政が共同する「オンライン移住相談」が広がっていったらいいですね。

最後に菊池さんは「地域に良い人が増えることで、めぐりめぐって自分の暮らしも良くなりますからね」と笑顔で話し、インタビューを締め括りました。

今回はオンライン取材だったので、コロナ禍が落ち着いたら私も門司港を再訪し、PORTOに泊まりたい!

今回の取材を介して、なぜ今までこの可能性に気付かなかったのだろうと不思議に思うほど、ゲストハウスと「オンライン移住相談」との抜群の相性に驚かされました。オンラインであれば、窓口に在席する必要がなくなるため、新鮮かつ多彩な経験を持った働き盛りの地域プレーヤーも相談員を務めることができます。相談員の人材がより豊かになれば、移住者の顔ぶれもより豊かになるはず。

もちろんオンラインが苦手という方もいらっしゃると思うので、従来の窓口も継続しながら、全国的に「オンライン移住相談」が今後続々と増えていきそうです。

※photo by PORTO